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2011-10-25

Code inconnu (Michael Haneke, 2000)

原題 Code inconnu: Récit incomplet de divers voyages
英訳 Code Unknown: Incomplete Tales of Several Journeys
邦訳 未知なる暗号:それぞれの未完の旅物語

移民、難民、亡命者、不法滞在者、旅行者が街路で交錯するパリは異邦人の都だった。様々に異なる言語、習慣、道徳、世界観、その間に横たわる格差。芸術と哲学は文化の相違を超える方法として信じられていた。世界の多様な音楽や舞踊が街頭で同時多発的に繰り広げられるWorld Music Day(Fête de la Musique)もパリから始まった(1982年)。音は連なる窓や扉を震わせて、区画された空間を通り抜け、拡がりながら減衰し、痕跡もなく消える。後には何か聴こえたという記憶だけ。その記憶も少しづつ崩壊して別の記憶と織り合わされ、思い返すたびにかたちを変えながら、いつか神話のようなものに近付いていくのかも知れない。しかしそれはまだ遠い先のことだ。生々しく衝突する未知の記号の群れで綴られた、痛ましく尽きることない街路の暗号を解読する鍵はまだ誰の手にもない。知ろうとして知り得ず、退けながら歩み寄り、断絶してなお語らいを求める。我々は等しく聾者の群れである。